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旅の記録

Hanoi③

朝食に、ドラゴンフルーツ、マンゴー、キウイなどのフルーツと、フォーを食べ、ホテルを出た。

その日は1日かけてハノイの街を歩き回ろうと、意気込んでいた。

 

1人で歩いていると、バイクに乗った人々が、私の方を見て、後ろに乗らないかと声をかけてくる。人力車を漕ぐ人々は、ベルの音を鳴らしながらしつこく追いかけてくる。きっと私は1番手に入りそうな客に見えていたのだろう。その度に微笑みながら、首を振った。

 

まずはベトナムのコーヒーを飲んでみようと、カフェ・フォー・コーという名前のお店に入った。本当にここにお店があるのだろうか。と疑ってしまうような入口。2つの小さなブティックの間に、暗くて細い廊下が続いていた。そこを通り抜けた時の衝撃は忘れられない。

 

背の高い竹の生えた中庭があり、吹き抜けになっていて、上を覗くと空が見える。壁には蔦や植物が張り付いていて、鮮やかで生き生きとした花が、自然に生えているかのように飾られている。

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夢の中のような、エキゾチックな空間だった。ぼんやりとそこで働く人々を眺めながら、慣れない味のするエッグコーヒーと、チーズケーキを食べた。

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店を出て街を歩き始めると、日本語でコンニチハ〜!!!と声をかけられ、思わず振り向いた。私と同じ背丈くらいのお姉さんが、バイクを押しながら笑顔で近づいてきた。

話を聞くと、要はバイクに乗らないかということだった。今日は歩きたいのだと、2回くらい断ったところで、そのお姉さんは、「私の父は6ヶ月前にコロナで亡くなった。家計に困っており、今日は自分の学校が休みだがら、弟の学費のために働いている。」と言う。

 

お父さんが亡くなった時の葬式の動画や、本人は薬剤師になるために大学で勉強していることなど、色々な話を聞いた。そしてなんとそのお姉さんは私と同い年だった。

 

お姉さんの話は、本当だったかもしれないし、もしかしたら稼ぐための巧妙な嘘だったかもしれない。でもこれも旅の出会い。1時間だけなら!と、バイクに乗せてもらうことにした。

 

ハノイの街は、夥しい数のバイクと、車が行き交っている。交通ルールなどもない。お姉さんは、自らの小さなバイクに私を乗せて、少しの隙間をするするとすり抜けていく。細い小道まで全てを知り尽くしている彼女の後ろなら安心だと、思うことができた。

 

彼女は商売上手で、1時間後も私を離さなかった。

結局その後もマーケットへ一緒に行き、日本へのお土産のために私の代わりに値下げ交渉をしてくれた。そして昼食には、現地の人ぞ知る美味しいお店に連れて行ってくれた。

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そこで食べたこのベトナム料理、なんという名前だっただろうか。

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ライスペーパーに、卵で作ったパリパリの薄い皮と、葉野菜を包んで、丸めて、スイートチリソースにつけて食べる。ああ思い出すだけで涎が垂れそうだ。

 

最後には、ソンホン川にかかる、徒歩では通ることのできない長い橋を、バイクで渡ってくれた。

 

橋の柵には、たくさんのビニール袋が縛り付けてあった。これは何かと聞くと、ハノイの人々は、旧正月の前に、金魚を川に解放したり、亡くなった人の衣服を燃やして川に流す習慣があるとのことだった。ビニール袋は、それらを運ぶために使われたものだった。

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橋の上から大きな緑色の川を眺めると、たくさんの小さな赤い金魚が泳いでいるのが見えた。なんだか異様な光景だった。

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ホテルの前で、1日分のお金を払い、お姉さんと別れた。彼女は笑顔で、見送ってくれた。

旅先で、計画通りにいかない1日ほど楽しいものはない。だから私は、旅に出るとき、なんとなくの予定しか立てないことにしている。

 

 

逞しく生きるお姉さんは、今もハノイで、元気にしているのだろうか。

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